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トイレットペーパー買い占め騒動の意外な犯人

【よかれと思ってやったことが……】

4/5付日経に「情報パンデミックの拡散力、SARSの68倍 新型コロナ」
「『デマ退治』が不安増幅 買い占め騒動ツイッター分析」という記事がありました。

新型コロナウイルス禍のなかで、
トイレットペーパー買い占め騒動が起こった理由について、
東京大学大学院(社会経済システム)の鳥海不二夫准教授、
データ分析会社のホットリンク、日本経済新聞の共同分析が紹介されています。

2月以降にツイッターに書き込まれた
「トイレットペーパー」の単語を含む日本語の全投稿を、
デマ情報、デマの否定、品不足の報告などに分類して、
10件以上リツイート(転載)された事例を集めた上で、
全国のスーパーの販売状況を集計する
日経POS(販売時点情報管理)のデータを使い、
実際の商品の売れ行きと比較したものです。

騒動の発端とされているのが、2/27午前10時過ぎに現れた
「中国から輸入できず、品切れになる」という投稿です。

ところがこの投稿自体は、全然拡散していないことがわかりました。
別アカウントによる類似のデマ投稿も2件ありましたが、
これらもほとんどリツイートされていませんでした。

では、何が騒動を巻き起こしたのか?
意外な“犯人”は、数時間後に次々と投稿された、善意のデマ否定リツイートでした。

「大半が国産だよ」「落ち着いて」といったデマを否定する投稿が、
2/27午後2時ごろから急増しました。
それに伴い「うちの近くはまだあった」「入荷しますと言っても聞いてくれない」といった、
トイレットペーパーの販売状況を知らせる書き込みも急増しました。

一般に、リツイート数千件=流行の目安とされていますが、
こうしたデマを取り消す投稿はわずか半日で9万件を超え、
翌2/28までの2日間で累計32万件にも及びました。

他メディアも黙っていません。
2/27夕方以降はニュースサイトやテレビも取り上げ始め、
関連情報はさらに拡散していきました。

そして実際に起こったのが、デマと訴えているにもかかわらず、
全国的なトイレットペーパーの買い占め騒動です。

日経POSによる全国のスーパーの販売状況では、
デマを否定する投稿の急増と同時に、
トイレットペーパーの品不足が進んだ様子が明確に見て取れます。

特に九州では、2016年の熊本地震の経験が思い起こされたとみられ、
全国でも買い占めが先行しました。

確かに、偶然ですが2/27夜、熊本市在住の友人に別件で連絡したら、
「ここ2日ぐらいでトイレットペーパーが売り切れてて、
店舗によっては売り場がすっからかんで、ほんとびっくり」と言ってました。

もともと品不足への漠然とした不安も背景にはありました。
2月上旬にはシンガポールなどで買い占め騒動が起きていて、
ツイッター上には過去の石油危機や災害時のトイレットペーパー不足を
指摘する投稿が増えていました。

ネット企業のエアトリによる調査では、
トイレットペーパーを買いだめした9割以上が
「供給に問題はない」と知っていましたが、
デマ関連情報の流布や品薄な状況そのものが
余分に買う行動に走らせたそうです。

私は、供給に問題はないと言いながら、
テレビが品切れになった空の棚を映像で流し続けたのも、
不安を駆り立てた面が大きいと思っています。

インパクトがある画が欲しいというのはわからなくもないですが、
これは、災害時に、ひどいところばかり切り取られて、
その地域全体が滅茶苦茶になっている印象を与えるのと似た構造だと思います。

記事では、「デマ投稿をそのまま目にした人はほぼいないのに、
デマ否定の投稿が爆発的に広がるという皮肉な状況が生まれた」とし、
「デマを否定する本人は『正しい情報を広めたい』というつもりでも、
受け手には『そんな噂があるなら、実際に品不足が起こるかもしれない』
と連想する人も出てくる」と言及しています。

情報発信は慎重にやらなければいけないんでしょうけど、
やっかいなのは、よかれと思って火を消そうとしたつもりが、
自分が思ってもいないのに、さらに火の勢いを強めてしまうこと。
これは難しい。。。

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【結局は情報を受け取る側がしっかりしないと】

もちろん、SNSが一方的に悪いということではありません。
記事では、SNSの“いい面”にも触れています。

SNSは、多くの知恵が瞬時に集まる情報インフラで、
とりわけ災害など緊急時に、
従来のメディアにはできない力を発揮する、としています。

2011年の東日本大震災では、
帰宅困難者の貴重な経路確認ツールでしたし、
2019年の台風19号上陸時は、
浸水や土砂崩れを警告し合う場になりました。

意図的にデマを発信するのは論外として、大事なのは、
たくさんの情報を受け取る側の姿勢とも言えそうです。

 

 

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