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今こそ求められる「利他」のキレイゴトではない意義

【協力はしたいけれど……】

6月12日から「東京版 新型コロナ見守りサービス」が始まりました。
都の文化施設、スポーツ施設、庭園・動物園、図書館などが対象で、
集団感染が発生したら、訪れた人にメールやLINEで知らせるサービスです。
施設内に掲示されたQRコードをスマホで読み取り登録する仕組みで、
「全員がこのサービスを使うことで安心感が生まれると思うので、
広まってほしい」と好意的な声が寄せられています。

他方、横浜市内の商店街。
神奈川県では5月に、同様のサービスである
「LINEコロナお知らせシステム」を導入しましたが、
商店街で登録した飲食店は8%程度と、普及には程遠い状況です。

システムに登録している焼肉店の店長は、
「お客さんに安心してきてほしいのが一番。
あの店でコロナが出た、と言われようが、
それでみなさんが気を引き締めてもらえるなら、喜んで開示したい」

一方で、不安を抱く方もいます。
商店街では4月に、「店を利用した客から感染者が出た」
というデマが流れ、売上が減った店もあったそうで、
「やっと客足が戻ってきたところに、よかれと思ってやったことが
逆の結果になるのは厳しい。協力はしたいが、
商売をやっている人間としてはちょっと難しい」という声も。

こうした不安に、神奈川県総務室の久保内顕主幹は、
「風評被害はないのかという心配の声はあるが、
このシステムは個人の店舗などを表に出さない点を丁寧に説明し、
今度の安全対策の基本なのでご協力をお願いしている」と話しています。
現に、久保内さんも含め神奈川県の職員が商店街を説明に回っています。(*1)

実は私の実家は福岡県内で大衆食堂をやっていまして、
風評被害を心配する気持ちはわからなくもありません……
というより、よくわかります。

ただそれでも、感染をとがめる→(店でも個人でも)風評被害を生む→
それを嫌って公衆衛生上望ましい対策が機能しなくなる→
大規模感染拡大につながって事態はもっと悪くなる……となれば、
これは悪循環としか言いようがないように思えます。

自分が行ったところの感染発生が把握できれば、
検査を受けるなり、その後の“気をつけ方”に役立つでしょう。
それには、情報を発信する側、受信する側双方の理解と協力が必要ですね。

(*1)東京、横浜の例は2020.6.12『ニュースウオッチ9』より

関門海峡 

【利他主義=自己犠牲ではない】

フランスの経済学者、思想家のジャック・アタリ氏は、折に触れ、
パンデミックという深刻な危機に直面した今こそ、
「他者のために生きる」という人間の本質に立ち返らねばならない、
と発言しています。

協力は競争よりも価値があり、人類は一つであることを理解すべきで、
利他主義という理想への転換こそが人類のサバイバルの鍵である、とも。

ずいぶん“甘い”ように聞こえるでしょうか?

アタリ氏の言う「利他主義」とは、
他者の利益のために自分を犠牲にすることではありません。

自らが感染の脅威にさらされないためには、
他人の感染を確実に防ぐ必要があるように、
他者を守ることこそが我が身を守ることであり、
家族、コミュニティ、国、そして人類の利益にもつながる、というものです。

アタリ氏は「利他主義とは最も合理的で自己中心的な行動」とも言っています(*2)。

感染症対策で国際協力が強調されるのも、
相手を助けることがひるがえって、
自国のメリットになるからでもあるんですね。

自分を利する“最短距離”のように見える自己中心主義よりも、
利他主義のほうが、結局自分のためになる。

この考え方、日本にもピッタリの格言があります。
そう、「情けは人のためならず」
安易な同情はその人のためにならない……ではなく、
その人のためにやってあげると回り巡って自分が報われる、という意味です。

こんな時期だからこそ、「利他」の知恵は大事にしたいですね。

(*2)ETV特集『緊急対談 パンデミックが変える世界~海外の知性が語る展望~』

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