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アメリカが留学生締め出し&WHO脱退通告~「集団知」で人類はウイルスに勝てない?

2020年7月10日

新型コロナウイルス禍の中、今年も九州地方をはじめ、
各地で豪雨被害が発生しています。
お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りいたしますとともに、
被災された方々や、そうした方々をサポートされるみなさまに、
心からお悔やみとお見舞いを申し上げます。


【授業がオンラインだけなら現留学生もNG】

アメリカ移民税関捜査局(ICE)は、9月以降の新学期に向け、
ビザ発給の規則を変更し、すべての授業がオンラインの場合、
留学生にビザを発給しないと表明しました。(日経電子版2020.7.8)

対象は新規のビザだけでなく、すでに在籍する学生にも、
条件を満たせなければ帰国か、対面授業をしている学校への転校を求められます。

これにより、アメリカの大学や高校に留学する際は、
対面式の授業を受けている証明書を学校から受け取り、
提出することが義務づけられます。

トランプ政権は、秋に授業を再開するよう学校に求めていて、
大学の収入源でもある留学生へのビザ発給要件を厳しくすることで、
圧力を強める狙いがあると見られています。

ご存知のように、アメリカでは新型コロナウイルスがまったく収まってなく、
ハーバード大学がオンライン授業に完全移行すると発表するなど、
多くの大学でオンライン化が進んでいる最中での政策です。

当然、優秀な人材が集まらなくなり、
将来の競争力を損なうと、反対の声も上がっています。

ハーバード大学とマサチューセッツ工科大学は、
「学生の安全を考慮せず、対面授業を再開するよう圧力をかけるもの」と批判して、
留学生ビザ制限の中止を求め、マサチューセッツ州の連邦地裁に提訴しました。

国際教育協会によると、2018~19年のアメリカへの留学生は、
全大学生の5.5%に当たる約109万人。
トップは約37万人の中国で、アジアからの学生が全体の7割超を占めます。
日本からも1万8,000人が留学していて、8番目に多い人数です。

この数字を見ると、これもまた米中対立の一環で、
中国への強い態度を誇示したいようにも見えてしまいます。

11月の大統領選挙に向け支持者へのアピールも大事なんでしょうけど、
トランプ政権の、分断や断絶をよしとするような排他的なやり方は、
結局、トランプ大統領支持者も含め誰も幸せになれないような気がしてなりません。

ちなみにトランプ政権は6月、専門技術者等を対象とする「H1B」等、
複数の就労ビザの発給を年内は停止するとも発表しています。

 アメリカ留学部屋

【進化にかけた時間がまだまだ足りない?】

話はトランプ政権下のアメリカに限りません。

新型コロナウイルス禍のもと、世界中が連帯する重要性を
多くの識者が声をそろえて訴えていますが、
残念ながら現実はほど遠いと思えます。

世界どころか、一国の中でも分断・断絶が広がっていて、
デマやフェイクニュースの拡散や、それにともなう
社会的スティグマ(差別・偏見のレッテル貼り)、
感染予防意識の差から起こる様々なトラブル、
死亡率にもつながる格差、根深い人種差別等々、
あぶり出される問題は山積です。

私は、その手の報道やドキュメンタリーを見るたび、
人類はウイルスに“賢さ”で負けているのではないかと考えさせられます
(ずいぶん大きく出たなと笑われるかもしれませんが)。

というのもウイルスは、ウイルス自身の多数の個体の死から学んで、
種として生き残っていくために適した戦略を、
全体で協力して実行できているように見えるからです。

新型コロナウイルスは、軽症や無症状でも感染を広げられる戦略を持っています。
他にも――
プラムポックスウイルス……毒性を一時的に弱め、監視の目をかいくぐる
ポリドナウイルス……寄生バチの体内に潜み、ガの幼虫に寄生するのを助ける
狂犬病ウイルス……イヌなどを狂暴にし、かみついた傷口から感染が広がる
ライノウイルス……風邪の原因のひとつ。命を奪わず、流行する (*1)

このように生存戦略は多種多様。まさに、
《単細胞生物の細菌に知能はないが、
種としての「集団知」がはたらいているのである。》(*2)
ということが、ウイルスにも言えると思います。

一方、「知性」を持っているはずの人類は、
戦争や災害等で個体死を繰り返してきましたが、
はたして人類としての「集団知」を得られているのでしょうか。

世界各国が感染症危機対策に割く予算は、
国防予算の数10分の1に過ぎませんが、
推計される死者数は感染症のほうが多い(*3)という点ひとつとっても、
人類は賢くない気が……。

現生人類(ホモ・サピエンス)が出現したのは約20万年前なのに対し、
ウイルスは約40億年前からずっと続いてきた「幸運な先祖」の子孫です。(*4)
加えて、いわゆる代替わりのスピードが段違いです。
例えばインフルエンザウイルスは、哺乳類が100万年かかる進化を
1年でやってのけるほど変異が激しいのです。(*5)

歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は、次のように指摘しています。
《歴史上の戦争や革命の大半を引き起こしたのは食糧不足ではない。
(略)こうした惨事の根本には、人類が数十人から成る小さな生活集団で
何百万年も進化してきたという事実がある。
農業革命と、都市や王国や帝国の登場を隔てている数千年間では、
大規模な協力のための本能が進化するには、短過ぎたのだ。》(*6)

また、日本が誇るSF作家、小松左京氏の『復活の日』にも、
《人類は「文化」の名にあたいするものをもつには、まだ若すぎたのだ。
「類」としての全体意識が普遍化されてすらいないのだ。
集団の中の「個」と「全体」の、原初的な調和段階にさえ達しておらず、
つい二千年ほど前に、ようやくぬけ出しかかったばかりの野獣状態に
まだ首までつかっており、かみあいや、とも食いや、集団殺戮の血のさわぎに、
ともすればのみこまれてしまう。》
という一節があります。

人類は、もう一段階も二段階も進化しなければウイルスに追いつけない、
なんて言っては言いすぎなのでしょうか。

最後に、再びハラリ氏の言葉を紹介します。
《第一に、国境の恒久的な閉鎖によって自分を守るのは
不可能であることを、歴史は示している。
第二に、真の安全確保は、信頼のおける科学的情報の共有と、
グローバルな団結によって達成されることを、歴史は語っている。》(*7)

中国寄りと非難していたWHO(世界保健機関)から、
来年7月6日をもって脱退すると正式に国連に通告したトランプ政権。
連帯や協力によって「集団知」を求める声は、
アメリカの大統領にはノイズでしかないのでしょうか。

(*1)日経電子版2020.5.23『ウイルスの底知れぬ怖さ 驚異の生存戦略に迫れ 驚異のウイルスたち(1)』
(*2)スティーヴン・ジョンソン(矢野真千子=訳)『感染地図 歴史を変えた未知の病原体』
(*3)2017年アメリカ・ドイツ制作「見えざる病原体」(NHK BS1で放送)
(*4)石弘之『感染症の世界史』
(*5)石弘之『感染症の世界史』
(*6)『サピエンス全史――文明の構造と人類の幸福』(柴田裕之=訳)
(*7)『TIME』2020年3月15日「人類はコロナウイルスといかに闘うべきか――今こそグローバルな信頼と団結を」