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世界中で引用される「感染地図」をつくったのは中国人留学生

【新型コロナ累計感染者数3000万人突破】

アメリカのジョンズ・ホプキンス大の集計によれば、9/18に、
新型コロナウイルスの累計感染者数が3000万人を超えました。
8/10に2000万人に到達してから、1カ月余りで1000万人の増加。
新型コロナに夏場は関係ないようですね……。

インドが新たな感染拡大の震源地になっていて、
ヨーロッパでも感染者が再び増加しています。
累計死者数は94万人超。
国別の累計感染者数は、米国が最多の660万人超で、
インドが約500万人、ブラジルが400万人超となっています。
日本の累計感染者数は約7万7000人です。(9/18日経電子版)

ホプキンズ大ダッシュボード

【きっかけは故郷への電話】

ところで、新型コロナウイルスに関する報道で、
感染者数や死者数の引用元として頻繁に目にするのがジョンズ・ホプキンス大学。
世界最古の公衆衛生大学院を持つ、医学系の名門大学です。

同大学が提供する世界の感染状況を示す地図、通称「ダッシュボード」は、
国や自治体、病院等から集めたデータをまとめ、
国ごとの感染者、死者、回復した人の数等をほぼリアルタイムで反映します。

世界中の報道機関が引用元として使っていて、関係者の間では
「ゴールド・スタンダード」とも呼ばれているとか。

このダッシュボードをつくったのは、同大学工学部の大学院生で、
中国からの留学生、エンシャン・ドンさんであることを、
私はBS1スペシャル『見えざる敵に挑む~AIが迫る感染爆発~』
という番組で知りました。

開発のきっかけは、ドンさんの故郷(武漢の北に位置する山西省)に住む
家族へかけた電話だったそうです。
家の近くで新型コロナウイルスの患者が出たという話になり、
そのときにドンさんが感じたのは、
感染がどこまで広がっているかわからないという不安でした。

そこでドンさんは、正確な情報を人々に伝える方法はないかと、
指導教授である同大学システム科学工学センターの
ローレン・ガードナー准教授に相談しました。

今中国で起きていることの情報をドンさんが集めていることを知った
ガードナー先生は、すぐにダッシュボード作成を勧めたそうです。

ドンさんが在籍する工学部のチームは、以前に、
ハシカやジカ熱の流行を示す地図をつくった実績がありました。
その技術をいかして、わずか一晩で公開にこぎつけたとのこと。
WHO(世界保健機関)に先んじること5日ほどだったといいます。

ダッシュボード公開当初(1月22日~)、感染者を示す赤い丸は320個。
ドンさんはそのデータを1人で集め、自ら入力していました。
ところが感染は急速に世界中に拡大し、
データの更新作業が間に合わなくなりました。
そこで活用したのが人工知能(AI)です。

報告される情報は収集方法も様々で、ばらつきがありました。
これらをすべて確認し、整理するのは困難なので、
AIを活用し、情報を集約する作業を自動化したのです。

ドンさんがAIに学習させたのは、国や自治体ごとの情報を正確に選別し、
さらに、集計したデータが正しいかどうか確認することまでAI自身が行うこと。
これにより精度が飛躍的に高まりました。

ドンさんは言います。
――今でも、多くの国、特に発展途上国には、
新型コロナウイルスの感染状況について正しいデータを
入手する手だてがないところもあります。
このダッシュボードは人類に貢献できたのではないかと思います――

7月にアメリカのトランプ政権が、留学生ビザの制限を表明し、
多くの反発を受けて撤回するということがありました。

もしドンさんのような留学生が締め出されていたら……。

ウイルスには当然国の違いなど関係ありません。
以前本欄でも取り上げた、思想家ジャック・アタリ氏の
「利他主義とは最も合理的で自己中心的な行動」ではありませんが、
新興感染症をはじめ、気候変動問題や食料問題、エネルギー問題等、
世界規模で協力しないと解決しない問題に対しては、
一見、得に見える自国中心的なやり方は、
かえって国益を損ねるという好例ではないでしょうか。

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