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「忘れてはいけない」とよく言うけれど――熊本豪雨からもうすぐ1年

【誰にも水害リスク】

間もなく、熊本県を中心に甚大な被害をもたらした
「令和2年7月豪雨」から1年を迎えます。

先日放送されたNHK熊本制作の番組、
『津波洪水の脅威 豪雨激甚化にどう備える』によれば、
これまでとは破壊力もメカニズムも異なる別次元の水害で、
堤防を大きく越えた濁流が周囲の低地を高速で流れ下り、
まさに番組タイトルの「津波洪水」が多くの家屋を破壊しました。

番組では、水害に見舞われた各地域の取り組みを紹介。
やはり肝心なのは、早めの避難です。
締めのメッセージは、
――豪雨激甚化の中、球磨川で浮かび上がった新たな脅威。
それは、今後誰もが水害のリスクと向き合い、
命を守る行動をとる必要性があることを伝えています――

豪雨災害が珍しいことではなくなってきた昨今、
みなさん、他人事と思わず十分気をつけましょう!
……と訴えたいところですが、そう思う一方で、正直、
「自分は大丈夫じゃないか」と漠然と思ってしまう私もいます。

少なからぬ被災者が「まさか自分が」となっているのも承知していますし、
もちろん災害があったことを「忘れてはいけない」と思ってはいるんですが。

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【忘れてはいけないことを知らない】

東日本大震災の被災地を、10年間、定点100か所で
撮影し続けてきた番組があります(*)。
それぞれの映像にまつわる記憶を、
被災されたさまざまな方々が語っています。

10年間、100か所でタスキをつないできた
250人のカメラマンの一人、宮本淳さんの話です。

――定点映像を通じた取材を通して思ったのが、
ある場所に時々行って撮影した決まった画角の場所、
そこに映っていたたった数分間の映像に、
これだけの人々の10年間の思いがあるとしたら、
フレーム以外の場所はもっとたくさんのことが
起きていたんだと思うんです。
私たちはたぶんそのことをほとんど知らないんですよね。

「忘れてはいけない」とよく言いますけれども、
たぶん、忘れてはいけないことのほとんどを
私たちは知らないんじゃないかという気にもなります――

これには考えさせられました。
もちろん「忘れてはいけない」は大事な警鐘です。
ただ、文句のつけようがない妥当なそのフレーズを、
“安易に” “便利に”使っていないだろうか、と。

経験を共有していない以上、実際に被害に遭われた方と
危機感などを同じように抱くのは難しいのかもしれません。
でも、自ら経験しない限り何もわからないというのではちょっと……。

だからこそ、被災者の声に耳を傾けたり、
災害について学ぶ意義があるはずです。
そこから教訓を得て、自身の防災・減災に活かせたときにはじめて、
「忘れてはいけない」の真意が成就するのでしょう。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」(ビスマルク)
この有名な格言も、忘れてはいけない、と思います。

(*)NHKスペシャル『定点映像10年の記録~100か所のカメラが映した“復興”~』(2021.3.14放送)

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